友情は瞬間が咲かせる花であり、そして時間が実らせる果実である。 by コッツェブー | どこにも売っていない自転車 2002年4月20日(土曜日) : : コメント数(11) 親に自転車を買ってもらった時のことを覚えているかい?俺っちは覚えている。そして生涯きっと忘れることはないと思う。だって、あの人は、ずっと忘れなかったから。 俺っちが自転車に補助輪なしで乗れるようになったのは、小学校四年生の時。他の子供達に比べれば、ちょっと遅いのかもしれないね。でも、自分の自転車は持っていなかったんだ。友達の自転車に乗っているうちに乗れるようになったんだと思う。 自転車に乗れるようになった俺っちは、当然のように自分の自転車が欲しくなった。とっても、とっても欲しくなった。友達はみんな持っていて、その横を走りながら付いていく自分が、ちょっぴり情けなく感じていた。 俺っちは自転車がとっても欲しかったけど、じっと我慢していた。俺っちの両親は当時別居していて、母親が一生懸命働いて俺っち達を育ててくれていた。母親さえ欲しい物を買えない状況なのに、俺っちが欲しい物を買えるわけはない。う〜ん、泣かせるガキだ。コンニャロ! ある時、母親と二人で出かけることがあった。そしたら『運悪く』自転車屋さんを見つけてしまったんだ。そりゃー、かなり運が悪い。あの頃の俺っちには、自分の好奇心を抑えられるほどの理性なんてありゃしないからね。俺っちは完全に自転車屋さんの前に釘付けになった。 気付かずに歩いていた母親が振り返った時には、俺っちは既にお目当ての自転車にまたがっていた。俺っちの頭の中には、町を滑走する自分の姿や、友達が羨ましがる姿、もう色々な妄想が入り乱れる。それだけでハッピーだ。 でも、母親が近づいてきた時には、はっと我に戻った。ヤバッと思った。初めてタバコを吸っている所を見られたようなあの感覚。ヤバって感じさ。慌てて自転車から降りて、母親の元へ走る。そしたら、あの人は言ったんだ。 『自転車欲しいの?』 俺っちは正直に答えた。 『うん』 何を思ったか、母親は俺っちの腕をいきなり引張り、こう言った。 『買ってあげるから来なさい。』 俺っちは驚いた。いや、真剣に驚いた。だって三万円くらいするんだ。そんな大金を親に使わせるわけにはいかない。だから何度も『要らない』って言った。でも、なぜか母親は頑固なほどに、自転車を買わせようとする。そしてあの人はすんなりと買ってしまったんだ。 俺っちは得た。自分の超かっこいい自転車を。ワクワクした。ドキドキした。俺っちは自分の真っ赤なマウンテンバイクを得た。さっきまで、自分の物ではなかった真っ赤なマウンテンバイク。それが今、自分の目の前にある。そして今は自分の物だ。天にも昇れそうな嬉しさってのは、こういうのを言うんだ。 はちきれそうな笑顔で自転車を押す俺っちを横目に、母親はニコニコしながら話し出した。 『昔お母さんが子供の時、義明と同じように自転車が欲しかったことがあったの。でも、お爺ちゃんはとても頑固で、物を買ってくれる事なんてめったになかった。でもね、そんなお爺ちゃんが、お母さんが自転車を欲しいって言った時だけ、すぐに買ってくれたの。だからお母さんも、義明に自転車を買ってあげたんだよ。』 俺っちは、その言葉をずっと覚えていた。なぜだかは分からないけど、ずっと覚えていた。 俺っちが中学校に入った時、俺っちはバイトをした。別居していた親父のもとで、力仕事のトビをやったんだ。気付くと手元に20万円があった。お金が欲しくて働いていたわけじゃないから、俺っちはその20万円の使い道にほとほと困った。でも、1つだけ決めていた事があった。バイト代が入ったら、絶対買おうと決めていた物があった。 給料をもらったその日、俺っちは妹に自転車を買ってやった。その頃、小学校二年生になる妹が、自転車に乗れるようになったんだ。だから買ってやった。俺っちは自分が誇らしかった。だって、あの人と同じことが出来たから。 真っ赤なマウンテンバイクは今はない。新しい自転車も、もういらない。あの自転車よりカッコイイ自転車なんて、どこに行っても絶対売っていないから。 終わり |
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